京都新聞(2012年6月25日)より許可を得て掲載
脳の未知 科学で追究
同大・学研都市キャンパスに研究科開設

今年4月、関西学研都市精華・西木津地区の同志社大学学研都市キャンパス(木津川市木津川台)に、脳科学研究科が開設された。近年耳にする機会が増えた「脳科学」。一体どの様な研究が行われているのか、キャンパスを訪ねた。(笹井勇佑)

「分子細胞」「システム」「病態」3分野
5年一貫 実習重視

脳科学は分子生物学や人文科学などさまざまなジャンルの学問を含む分野で、脳の仕組みの解明や疾患の治療法などを探っていく。

そのうち同研究科には「分子細胞」「システム」「病態」の3分野に、八つの専門的な部門が置かれている。分子細胞分野では、神経が連絡する際に働く物質などを研究。病態分野では、アルツハイマーなど脳神経疾患のメカニズムを解き明かす。

残るシステム分野で、どんな研究を行っているのか尋ねた。藤山文乃教授らの研究室では、「トレーサー」という物質を標識に用い、神経単位「ニューロン」で構成するネットワークを光学・電子顕微鏡で観察している。

信号がどのニューロンをどの方向に伝わっているのか。得られたデータをパズルの様に組み合わせていくことで、全体の構造を明らかにする。「脳の路線図を書き、路線ごとの通行量を探る様な作業」と説明する。

藤山教授は神経内科の臨床医だったが、パーキンソン病やハンチントン病に見られるまひがないのに体が動かなかったり、意図しない動きをしてしまったりする症状の治療に役立てたいと基礎研究の分野に進んだ。オックスフォード大で学んだ後、米テネシー大、京都大で解剖学や神経ネットワークの構造などを調べる形態学の研究に取り組んできた。

「脳は人体の一部なのに、宇宙と同じくらい未知の部分が多い」といい、「なぜ動けるか。通常のメカニズムを解明することで、どの過程での問題が、症状に結びつくかも発見できる」と語る。

同研究科は、修士課程のない博士課程のみの5年一貫制も特徴だ。同大は「修士論文や就職活動に煩わされず、研究に集中してもらえる」と利点を説明する。学生の定員も50人と少なく、講義形式の授業に比ベて実習や研究に重点を置く。

開設後半年を経た現在の学生はまだ5人。そのうちの1人、水谷和子さん(22)は「恵まれた環境を実感している。目標としている神経疾患の研究に向け、まずは基礎を学んでいきたい」と話す。

学研都市に新たに誕生した研究拠点。ここから未来を切りひらく成果が生まれることに期待したい。

京都新聞(2012年6月25日)より許可を得て掲載